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東京地方裁判所 昭和32年(行)70号 判決 1958年5月15日

原告 菊印食品株式会社

被告 関東信越国税局長

訴訟代理人 森川憲明 外二名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされた訴状によれば、「訴外岩村田税務署長が昭和三十一年七月二十一日訴外長野缶詰興業株式会社に対する滞納処分として、長野県小諸市与良、佐藤今朝松方所在の砂糖六十斤入百袋及び哂水飴五ガロン缶入百缶を差押えた処分は、これを取消す」との判決を求め、その請求の原因として、

一、訴外岩村田税務署長は、昭和三十一年七月二十一日訴外長野罐詰興業株式会社に対する滞納処分として、長野県小諸市与良佐藤今朝松方所在の砂糖五十斤入百袋及び哂水飴五ガロン罐入百罐を差押えた。

二、そこで原告は同年八月四日岩村田税務署長に対し右処分を不服として再調査の請求をしたところ同署長は右請求を却下し昭和三十二年一月六日原告に通知した。

三、そこで原告は同年二月四日更に関東信越国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は審査請求を却下し同年五月二十七日原告に通知した。

四、しかしながら前記差押物件は長野罐詰興業株式会社の所有ではなく原告の所有であるから、前記差押は違法である。

よつて右差押の取消を求めるため本訴に及んだ。

というのである。

被告指定代理人は本案前の答弁として、主文同旨の判決を求めその理由として、次のとおり述べた。

一、原告は関東信越国税局を被告として本件訴を提起しているが関東信越国税局は行政官庁である関東信越国税局長及びその補助機関等をもつて構成されている国家行政組織上の組織体(官署)であつてそれ自体は行政庁ではない。しかして国税局そのものに訴訟上当事者たる資格を認めた法令は存しないから関東信越国税局は訴訟上当事者となることができない。したがつて関東信越国税局を被告とした本件訴は不適法である。

二、次に原告が被告を関東信越国税局長に変更したとしても、本件訴は次に述べるとおり不適法である。

(一)  原告は本件訴を提起するに先立ち、本件徴収処分の取消を求めるため関東信越国税局長に審査の請求をなし、昭和三十二年五月二十七日審査決定の送達をうけ、同年八月二十八日本訴を提起している。しかし本訴の出訴期間は審査決定の通知を受けた日から三ケ月以内すなわち昭和三十二年八月二十七日までであるから、本件訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴である。

(二)  行政庁の処分の取消を求める訴は法律に特別の定めのある場合を除いて処分をした行政庁を被告として提起しなければならない。ところで原告が請求の趣旨において取消を求めている処分をした行政庁は岩村田税務署長であるから、被告適格について特段の定めのない本件の場合には被告適格を有する者は岩村田税務署長のみに限られる。したがつて関東信越国税局長を被告として岩村田税務署長のした処分の取消を求めたとしても、その訴は被告適格のない者を被告とした不適法な訴といわなければならない。

本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め答弁として、請求の原因第一ないし第三項は認める。但し第二項の処分は再調査請求を棄却したものであり、第三項の処分は審査請求を棄却したものである。第四項は争う。と述べた。

理由

一、本件訴は関東信越国税局を被告として提起されたものであるから不適法であるとの主張について、

本件訴状によれば当事者として被告関東信越国税局と記載されていることは明らかであるが、訴状全体の記載内容から判断して本件訴は関東信越国税局長を被告として提起されたものと認めるが相当であり、前記当事者の記載は関東信越国税局長の誤記と認めるべきである。

よつてこの点に関する被告の主張は理由がない。

二、本件訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴であるとの主張について訴外岩村田税務署長が原告主張のような差押をなし、原告が右処分を不服として再調査請求を経て関東信越国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長が右請求に対する決定をして昭和三十二年五月二十七日原告に通知したことは当事者間に争いがない(但し、関東信越国税局長の処分は弁論の全趣旨から審査請求を棄却する処分であつたと認められる)。

ところで本件訴は前記岩村田税務署長の差押処分の取消を求めるものであるところ、右のような訴は原告が前記関東信越国税局長のなした審査決定の通知を受けた日から三ケ月以内である昭和三十二年八月二十七日限りこれを提起しなければならないが、本件訴は右期間経過後の同年同月二十八日当裁判所に提起されたことは記録上明らかである。

よつて本件訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 越山安久)

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